昨年話題になってSNS等でたくさんの感想、意見を見たので、これは観ないわけにはいかないな、と思った映画「JOKER」を遅ればせながら観た。以下ネタバレあるので未見の方は読まない方がいいかも知れません。
主人公が自分の人生は悲劇ではなく喜劇だと云っていたように、これは残酷なギャグ、ブラックジョークだと思った。格差や様々な暴力、児童虐待を背景にしているけど、本気で言及しようとしているとは思わなかった。あまりにも踏んだり蹴ったりな主人公の人生。主人公の哀しみも孤独も怒りも壊れる理由もそれに同調する人々の様子も、全てが説明過多で明瞭で、まるで相手に考える隙を与えず思考停止にさせて云い包めようとしているような強引さを感じて映画として好きになれなかった。(ギャグとしても辻褄が合い過ぎていて笑えない)
「タクシードライバー」を下敷きにしてると思われるところが幾つもあった。「タクシードライバー」も好きではないけど、もう少し重たい余韻があった。アメリカ社会の闇みたいなものが少しは描かれているように思ったから。ラストでも変わらずイカれた正義漢だったロバートデニーロが、この映画では見当外れで恵まれた側の良識派として出演しているのもギャグだと深読みしてみたり、。「タクシードライバー」がロバートデニーロと云うスターを生んだPV映画だとすれば、この映画もホアキンフェニックスは熱演だし、きっと優秀な人材を集めて作られたのだろうから映像は綺麗で格好良く、緊張感を緩めないようにいちいち気が利いている音楽はちょっと鬱陶しいくらいだけど、たぶんスターを生んだ映画として残りはしないと思う。
「(思い付いたギャグ)あんたには理解出来ないさ」と云う明快過ぎる最後の台詞とともにシナトラの曲が流れ、カウンセラーの女性を殺して血の足跡を残しながら意気揚々と去って行き、追いかけっこを始める主人公を観て、最後まで徹底したコメディ娯楽作品なのだと思った次第。元がコミックの題材だし、敢えてこう云う表現だと云うのは分かるつもりだけれど。
僕は話題になっているものに白けた意見や斜に構えた感想が云いたいわけじゃない。むしろ映画でも音楽でも話題の作品に触れる時は「確かにこりゃスゴイな〜!」と思いたいと素直に期待している。でも申し訳ないけど*マゾンに2,000円以上も払ってガッカリだった。娯楽作品が悪いなんてもちろん思わないし、軽薄な作品は大好きだけど、作り手の「思惑」ばかりが見えてしまうと気が逸れてしまう。それから、格差や暴力、児童虐待についてもっと深く言及して考えさせられる映画は他にいくつもあると思う。具体例は挙げないけど。
*追記:この事に触れると批判的な云い方になってしまうので書かなかったけど、ラストシーンのダンス〜ドタバタな追いかけっこは明らかにチャップリン映画からの引用(他にもモロにチャップリンのスケートから映像を引用しているけど)。もちろん監督自身もそれについて説明しているだろうけど、この映画の内容にチャップリンを引用するのは単純に不快だった。社会的背景を意識してか、単に無茶なアイデアを面白いと思ったのか、そもそもこの主人公の境遇やキャラクターはチャップリンから発想したとも考えられるけど、この映画はチャップリンの遺した「反骨」の足元にも及ばないと思う。
*さらに追記:後日SNSでラストシーンは「キングオブコメディ」の引用であり、スコセッシ監督へのオマージュだと監督自身が説明していると教えてくださった方がいました。なので上記は僕の早とちりだった事をお詫びします。すみませんでした。「キングオブコメディ」は未見なので近々観るつもりです。その後この映画に対して何か印象が変わったらまた追記するかも知れません。
(以下はチャップリンの言葉)
しばしば、とんでもない悲劇が
かえって笑いの精神を刺激してくれる。
*
あなたが本当に笑うためには、
あなたの痛みを取って、
それで遊べるようにならなければなりません。
*
私たちは皆、
互いに助け合いたいと思っている。
人間とはそういうものだ。
相手の不幸ではなく、
互いの幸福によって生きたいのだ。
*
連中の恨みもやがて過ぎ去り、
独裁者らも死んでしまう。
そして連中が人々から奪った力は、
人々に戻される。
そして連中が死んでしまう限り、
自由が失われることは決してない。